ゆーたんのつぶやき

株式会社ノークリサーチにてIT関連のシニアアナリストとして活動しています。

「ビジョン」と「スピリット」



事業であったり、プロジェクトであったり、どんなものでも
何かを推し進めようとする時には「ビジョン」と「スピリット」
を明確にすることが大事ですね。


「ビジョン」とは『実現させたい姿や光景』であり、「スピリット」は
その物事に取り組む上での『気構えや心意気』のようなものだと
理解しています。
「スピリット」を「理念」と置き換え、『ビジョンと理念』として
一緒に掲げるパターンも多いようです。


(細かいことを言い出すと「ビジョン」「ミッション」「コンセプト」
「スピリット」「ポリシー」などいろいろ言葉が出てきて、各々の
定義も人によって微妙に異なってくると思いますので、その辺りは
ここでは過剰には気にしないことにします)


ここでありがちなのが、ビジョンが曖昧だったり語られていないのに
スピリットだけがやたらと強く押し出されているようなパターンです。
例えば、下記のような例を考えてみたいと思います。


【わが社のビジョン】
 我々は如何なる困難にも前向きに立ち向かい、常に革新的な
 技術の修得に励み、新しい価値創造を目指すプロ集団である


果たして、これは「ビジョン」なのでしょうか?上記の定義から
すれば、これはビジョンというよりはスピリットに近いものです。
一般的な見地からも上記はビジョンというよりは理念でしょう。
ですが、上記のような「ビジョン」の掲げ方がされている組織は
意外と多いのではないでしょうか?上記のビジョンでは「どんな
姿勢で取り組むべきか?」ということは熱烈に語られていますが
肝心の「何をするのか?何を生み出すのか?」がありません。


ビジョンというのは語られた内容から実際の光景がありありと
思い浮かべられるものであるべきですが、上記のビジョンでは
「新しい価値創造を目指す」としか書かれていないので、実際
の光景をイメージすることはとても難しいです。下手をすると
「何をやるかは良くわからないけど、とにかく技術力をつけて
何か新しいことを生み出したいんです」と言っているようにも
聞こえてしまいます。「とにかく何か新しいことをやる」では
ビジネスとしては成立しませんし、ヒトから共感を得ることも
できません。もし、この会社が自転車を作る会社であるならば
ビジョンとスピリットを書くとすると、


【わが社のビジョン】
 アクティブな若者を対象とした、スポーティなイメージの
 マウンテンバイクのオーダメイド製造販売を通じて、都会
 の雑踏の中でもエキサイティングな走りを体感できる遊び
 を提案すると共に、個人のステータスシンボルとしての自
 転車の新しい在り方を世の中に普及させる。
【わが社のスピリット】
 我々は上記のビジョンを達成するために如何なる困難にも
 前向きに立ち向かい、常に革新的な技術の修得に励むプロ
 集団である。


みたいな感じになるかと思います。(自転車がもうすぐ壊れ
そうで、いいのがあったら欲しいなと思っているので....)


ビジョンの部分は具体的なイメージが湧くようにと考えれば
必然的に「誰に、何を、どうやって提供するのか」という
5W1H」的な要素が必須になってきます。ボクの場合も実際
にプランを記載したプレゼンを作成する際には個々の要素を
箇条書きにした形にしています。
最初の方のビジョンでは一体何屋さんなのかすら不明ですが、
後の方のビジョンであれば、少なくとも自転車屋さんであり、
若者向けのマウンテンバイクが主眼であることや、オーダー
メイドによる製造販売スタイルを取っていること、世の中に
自転車というものをどうアピールしたいと考えているか、と
いったことが読み取れてきます。


こうした「スピリットをビジョンだと勘違いしている」ケース
があると、影響が大きいのは対外的な面よりもむしろ組織内の
社員のモチベーションではないかと思います。
ビジョンが不明確でスピリットだけが強調されている組織では
「何をやるかは良くわからないけど、とにかく頑張って働け!」
と言われているのとほとんど同じ状態です。人間は目的意識が
ハッキリしていれば、多少の苦難も耐えられるのが常ですが、
達成したいイメージがモヤモヤとしていると、ちょっとした事
でもストレスになります。具体的なビジネス上のアクションや
判断においても近視眼的で一貫性のないものになりがちです。
部下から見るとプランがコロコロ変わったり、朝令暮改をして
いるように映ったりします。


こういった場合、リーダーなり経営者なりが「ビジョン」と
「スピリット」の違いをきちんと理解して、明確なビジョン
を描いてくれれば何の問題もありません。
ですが、そうでない場合には「コレがオレのビジョンなんだ」
という『オレ流』を主張したり、「具体的なビジョンは個々
の部署の責任者が描くことだ」という転嫁行為が見られたり
します。会社の大きなビジョンを描き、それを社内外に周知
させるのは真にリーダーや経営者の最も重要な役目の一つで
はありますが、それがうまくできていないケースといえます。


このようなケースの場合は「自分なりにビジョンを創ってしまう」
というのが一番手っ取り早いと思います(笑) 自分個人のレベル
でも良いですし、自分の課や部の単位でも構いません。そもそも
誰しも『自分自身の経営者』であるわけなので、自分個人として
のビジョンとスピリットは持っておいて損はないはずです。


「求める姿」が明確に描かれないまま動く組織は迷走しますし、
個人としてそれを持っていないと疲れやすくストレスも溜まり
やすいです。もし、「何か、最近覇気が出ないな」と思うこと
があったら、『ビジョンがモヤモヤとしてきていないか?』と
いうのを組織レベルでも個人レベルでもチェックするのがいい
のかな、と思いました。