ずっと以前から、疑問に思っていたことがあります。それは、
「一つのファイルは何故一つのディレクトリにしか所属できないのか?」
ということです。もちろんショートカットやシンボリックリンク
という形で似たようなことはできます。ですが物理的なファイル分類
は一通りであり、それに縛られていることには変わりありません。
以前にeコマースの製品を開発したことがありましたが、その時には
各商品は価格帯別、用途別、販売元別といったように様々な観点からの
「意味的な分類」でフォルダ分けを何通りにもできるようにしました。
これは一般的なeコマースサイトであれば、現在でも当たり前のように
行なわれていることです。これと同じようにOSのファイルシステムでも
「意味的な分類」に従って自由にフォルダ分けができないものかなぁと
ずっと思っていました。
そうこうしているうちにファイルの分類方法そのものに対する考え方が
変わりつつあるようです。次期WindowsOSのVistaではWinFSにおいて、
ファイルをメタ情報によって分類&検索することができるようになります。
このメタ情報はSNSなどで良く使われる『タグ』に近い概念ですが、
一つのファイルには複数のメタ情報やタグを付加することができるので
まさに上述のような「意味的な分類」ができるようになるわけです。
従来のファイルシステムが「ツリー状」の分類をしていたのに対して、
メタ情報やタグによる分類は「フラット」でありながら、多重的な関連
も許した有機的なイメージのデータ構造になるといった感じでしょうか。
ユーザービリティというものを考えるとき、単に現状の枠組みの範囲内で
視認性や操作性を向上させることだけを考えていたのではブレークスルー
にはならない気がします。例えば、一昔前には「ドラッグ&ドロップで
ファイルをディレクトリ間に移動・コピーできる」ということがリッチな
Webアプリケーションの特徴とされていましたが、実は一つのファイルを
選択し、それをどの意味的分類に所属させるかを選ばせるというスタイル
の方がわかりやすいかも知れません。(つまり、ファイル自体を「移動」
させるのではなく、そのファイルが持つ意味付けの方を「回転」させると
いった感じ)「ツリー状」の分類を前提とし、その操作性を改善するという
思考ではなく、「ツリー状に代わる分類方法はないか?」と考えることが
ブレークスルーにつながる第一歩ということかと思います。
蛇足ですが、ドラッグ&ドロップはブラウザのみでもスクリプトを書けば
実現できますし、アフォーダンスの観点からもユーザビリティが高いとは
必ずしもいえないので、最近はドラッグ&ドロップをリッチクライアント
の特徴として挙げるアピールの仕方はめっきり見かけなくなりましたね。
Webアプリケーションという枠組みだけでユーザビリティを考えると、
どうしても「ブラウザに対して操作性をどう向上させるか?」という視点
のみになってしまいます。つまり、HTMLで記述されたブラウザ向け画面を
リッチに対する「プア」と見なし、そこからどれだけ「リッチにするか?」
を考えるわけです。ですが、視点をeコマースやSNSの世界に転じてみれば、
従来のWebアプリケーションとは異なる観点でユーザービリティを概念の
レベルから根本的に改善しようとする試みがいろいろとなされています。
画期的なユーザビリティ改善のヒントは普段とは畑違いのWebコンテンツや
サービスを覗いてみることで、案外と見つかるものかも知れませんね。