ゆーたんのつぶやき

株式会社ノークリサーチにてIT関連のシニアアナリストとして活動しています。

有償ソフトとOSS&SaaSの関係



有償にてソフトウェアを提供してきた会社にとって、上記の
二つは間違いなく無視できない要素であることは言うまでも
ありません。そのあたりについてふと考えたことをメモって
おきたいと思います。


[OSSからの逃避行]
ベンチャー系の有償ソフトベンダーが犯してしまいがちな戦略
ミスとしてこれがあります。どういうことかというと、自社の
戦場がOSSに侵食されそうになったら次の分野へ移動するという
ものです。GWやCMSといった情報系アプリのOSS化が進んだ際に
「有償ソフトの勝負どころはユーザビリティ」という論調が
強調された時期が1〜2年前くらいにありました。それを受けて
商用ベンダーがリッチクライアントという言葉を掲げ、それに
期待をかけたのはごく最近のことです。ですが、AJaxのように
わざわざ有償のアプリやツールを使わなくても同様のことが
可能になってきたことや、FlashにおけるLaszloのように従来は
有償であったツールのOSSとしての代替が出現してきたことで、
今となっては有償であることの決定的な根拠としての期待度は
やや薄れてきた感もあります。
このようにして「この分野ならまだ有償でいけるぞ」という発想
で最後の楽園を捜し求めてしまうのが「OSSからの逃避行」です。
ところが「BIは高付加価値になる」といった直後に「BIRT」が出現し、
「業務アプリなら有償ソフトの余地があるはず」といった矢先に
「SugarCRM」や「Compiere」が登場するといった具合に、仮に
楽園を見つけたとしてもそこにはすぐにOSSが出てくるのが現状
です。一年くらいの間に戦略キーワードが「リッチクライアント」
「BI」「業務アプリ」といったようにコロコロと変遷している場合
にはこの逃避行をしてしまっている可能性があるので要注意です。


ではどうすれば良いのかということですが、従来考えられたのは
1. 単なるモノではなく、業務ノウハウも含めた「アセット」を提供する
2. モノ自体の収益は極小化して、サポートやインテグレーションで付加価値を出す
といったところではないかと思います。
そして最近になって付け加わった選択肢が「SaaS」です。
SaaSは「モノ」の提供ではなく「サービス」を提供するという観点で
見れば2.の進化系(運用環境を丸ごと提供するという付加価値)という
捉え方もできるかと思います。


[SaaSに対する誤解]
有償ソフトベンダーのSaaSに対する誤解の最たるものの一つは
「年額や月額で収益が得られるので、安定収益が見込める」
というものです。これは従来の「モノ売り発想」「売り切り発想」
を引きずったまま、SaaSを根本から誤解している例と言えます。
5年間利用する予定で500万円のソフトを購入したとします。2年目
になってビジネスの大幅改変が生じ、このソフトが業務の現状に
合わなくなったとしても返品することはできません。
ですが、SaaSの場合には毎年100万円ずつ支払うことができ、2年目
になって何らかの不満があれば利用を止めることもできます。
ですから、ベンダー側には常にお客様のニーズに即応する努力が
求められます。「来年のバージョンアップまで待ってください」と
いうフレーズはもはや通用しなくなるわけです。そうした本質を
捉えずに売り切りの発想を引きずっていると、冒頭のような発言が
出てくるわけです。
SaaSに取り組むためにはプロダクトの開発体制を根本から見直す
必要があります。まず、リリースサイクルが短くなりますし、同一
プラットフォーム上に設定状況の異なる複数の顧客のシステムを
稼動・管理させるための仕組みや体制も求められてきます。
有償ソフトベンダーにとっての最大の課題はリリースサイクルの
大幅な短縮化でしょう。品質を落とすことなく、よりアジャイル
開発手法の研究をしなければならないとボク自身も考えています。


こうした状況を無視して、「一発逆転」を狙ってしまうケースも
あります。今後はショートなリリースサイクルを何度も回す形態が
必要になるのはほぼ明らかだと思いますが、それに反して重厚長大
開発手法を持ち出し、ノウハウの貯まっていない最新技術を無理に
採用して、1年以上にも渡る長期のプロジェクト計画を立ててしまう
といったケースはその一例です。プロジェクト期間が長すぎると、
開発途中でOSSの代替が登場したりといった風向きの変化に遭遇します。
(もちろんSaaS実現のための土台となるプラットフォームだったりと
いったものは開発に長期間を要します。ここではそうしたプラット
フォームではなく、特定のビジネスニーズを満たすことを目的とした
アプリを想定しています。)
そこでまたリプランが入ることになり、結局いつになっても実際に
動くモノを目にすることができないという状況に陥ることがあります。
「高く売れるモノを作ってやろう」という押し付け的な発想ではなく、
顧客やパートナーの声に真摯に耳を傾け、必要とされているものを
イムリーに提供するという姿勢が大事だと思います。


[SaaSOSS]
このように有償ソフトベンダーに多大な影響を与えている(ボク自身は
長い目で見ればいずれも良い影響だと思っていますが)SaaSOSSですが
これらの間の関係はどう見れば良いのでしょうか?
OSSは顧客自身がソースコードを改変することで自社の業務にフィット
させることができるのが最大の利点ですが、SaaSは稼働環境を運用側に
預けるのが原則ですので、ソースコードをいじくるわけにもいきません。
このように一見すると親和性がないように見える両者ですが、これらを
つなぐことになる可能性を秘めていると感じたのが、最近Sunが試験提供
を開始した「Sun Developer Collaboration Network(SDCN)」です。
http://www.sdcn.jp/
誤解を恐れずに簡単に言ってしまうと、開発環境をSaaS的に提供しようと
いうものだとボクは捉えています。個々の顧客毎の細かい開発環境設定
が可能で、それをネットワーク越しにどこからでも利用できます。
このように個別に保護された開発環境がネットワーク越しに利用可能な
状況が整備されれば、SaaSとして利用しているアプリケーションに対し
顧客ないしはSIerソースコードレベルでのより高度な改変を施すと
いったことも不可能ではなくなるのではないかという気がします。


昨今では有償ベンダーのSaaSに対する取り組みが顕著ですが、これに
さらにOSSの要素が加わることで、より迅速により深いレベルで個々の
顧客にベストマッチしたプロダクトとサービスを提供できる仕組みが
生まれるのではないかと期待しています。
そうした流れの一翼を担えるように頑張っていきたいと思います。