ゆーたんのつぶやき

株式会社ノークリサーチにてIT関連のシニアアナリストとして活動しています。

スーパーエッシャー展



仕事で超多忙であるはずなのに、東急BUNKAMURA
開催中のスーパーエッシャー展に行ってきました。
どうも、仕事量が多くなるとそれに比例してその他
の活動も増えてしまうようで、やはり人間バランス
を求めているのだなと感じます(笑)


エッシャーと言えば、グルグルと昇り続ける階段や
循環する滝といったいわゆるだまし絵で有名ですが
今回はそのルーツを探る意味でも絶対に観たい展示
でした。


着いてみると長蛇の列で、チケット購入は70分待ち(!)
受付のおじさんにチケットの入手方法がないものかと
迫ってみると、「近くのブックファーストにチケット
の残りがあるかも」とのことなので、行ってみたら
何なくゲットできました。(粘ってみるもんだなぁ..)


エッシャーを一言でまとめると「Complement」だと
自分なりに理解できたのが今回の最大の収穫でした。
「補完」という意味ですが、なぜそう思ったのかを
エッシャーの作品の流れと共に順に整理してみます。


初期の作品は風景画が多いのですが、版画の場合には
(エッシャーは版画家)基本的に白黒の2ビットの世界
ですから、見た目通り陰影を再現することは困難です。
そのため実際とは異なる表現をすることになり、本来
明るいところが黒かったり、その逆になったりします。
局所的には白と黒の補完でもってモノの形や陰影を
表現しているわけです。


その後には平面を一定のパターンで充填するという
作品が目立ちます。ここでは魚や鳥、トカゲといった
生き物が互いに絡み合って一つのパターンを形成して
います。黒い方と白い方、互いに補完しあいながら
絡み合って模様を作り出しています。ここで特に興味
深かったのは「平面の極限」という作品。絡み合う
天使と悪魔の図柄が円盤の中に描かれているのですが
円周に近づくにつれ、どんどん小さく描かれています。
円周は無限遠を表しているのです。これは複素平面
他なりません。実際、この作品を立体表現したCGでは
円周をクリックすると球体上を移動するような動きに
なります。球体上の1点を無限遠とみなして皮を剥ぐ
ように平面上に展開するという考え方は複素平面
発想そのもので、この作品が当時の数学者達の注目
を集めたというのも頷けます。


この作品がきっかけになったのかわかりませんが、
それ以後は球体レンズを通して描かれる静物画が
多くなります。レンズを通すことによって空間が
歪められる様子が描かれていますが、この歪みが
後のだまし絵につながったのかも知れません。


そして、美術の教科書などにも良く載っていた
だまし絵が描かれるようになります。と言っても
作品の中に占めるだまし絵の数はごくわずかです。
モノの位置関係の認知をうまく狂わせることで
不思議な絵になっているわけですが、レンズを
通したときの映像の逆転や遠近感の狂いにヒント
を得たのではないかと個人的には思っています。
レンズを通して反転させるという意味ではビット
の反転(補数)と同じということで、これもまた
Complementというキーワードに当てはまります。
(ちょっと強引かな....)


晩年は蛇が絡み合うような三次元的な作品が
登場してきます。その後間もなくエッシャー
は亡くなってしまうのですが、もしもう少し
生きていたら、三次元でのだましの手法を
編み出してくれたのではと悔やまれます。
(ちょうど、クラインの壷みたいな....)


こうして振り返ってみれば、初期の風景画も
現実の光の明暗とは異なる形で、いわば黒と
白を現実とは反転させることで、リアルな
印象を持たせるという意味ではある種だまし
でもあります。そうしたComplementの手法を
駆使する版画という分野であったからこそ、
昇り続ける階段や落ち続ける滝のような作品
が生まれたのではないかとボクは思います。


ということで、多忙な合間を縫っての鑑賞
でしたが、予想以上にエッシャーは分析的
な手法を駆使した版画家であり、だまし絵
のルーツも自分なりに納得のいく理解が
できたので、大変有意義な休日の一時でした。