ゆーたんのつぶやき

株式会社ノークリサーチにてIT関連のシニアアナリストとして活動しています。

中小企業白書2012年版を踏まえた考察



2012年版の中小企業白書が発表されました。
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/120427hakusyo.html


2011年版と比較しながら、数の上では多くを占める小規模企業
(従業員20人以下)のために何をすべきなのか?について考えて
みたいと思います。


[1.エネルギー供給について]
2011年版では東日本大震災の影響による電力供給課題について
詳しく触れられています。2012年版においても電力料金値上げ
が中小企業に与える影響について言及されています。


東京都は都内の中小企業が自家発電設備や鉛蓄電池を設置する際の
助成枠を拡大し、都外の事業所にこれらの設備を設置する場合にも
助成を受けられるようにしています。


実際、2011年に実施された計画停電の際には東京近郊で稼働している
サーバを都内の営業所に持ち込むことで対処した(東京23区内は計画
停電の対象外であるため)という中小企業も少なくありませんでした。


ですが小規模企業が投資可能な設備は、電力供給が止まるタイミングを
遅らせ、停電による突発的な停止による製造設備の棄損を防ぐレベルで
しかありません。


今年の夏、東京電力管内の電力供給はプラスの見通しのようですが、
関西電力管内では不足が懸念されています。関西にも東大阪など中小
製造業が多く集まる地域があります。もちろん、電力供給の過不足に
ついては様々な議論がありますが、少なくとも中長期的な視点で中小
企業に対する安定的な電力供給を確保する必要があるのは確かです。


今後、PPSの割合が少しずつ増えていったとしても、力の弱い中小企業
が契約を獲得することは難しいかも知れません。国や都道府県がPPSの
育成を支援すると共に、域内の中小企業への電力供給を取り仕切るなど
の取り組みを今から検討しておくべきではないかと考えています。


[2.財政面での支援について]
2011年版、2012年版いずれも地方銀行、信用金庫、信用組合といった
いわゆる地域金融機関と中小企業との相互理解や関係深化の重要性に
ついて触れています。


極めて重要なポイントですが、どちらかというと既に存在する中小企業
を対象とする取り組みといえるかと思います。ITを活用した新たな業態
の登場が期待される一方で小規模企業が減少している状況を踏まえると
新興企業の資金調達手段の拡充も並行して検討すべき事柄です。


例えば、先日オバマ大統領が署名した「JOBS Act(Jumpstart Our Business
Startups Act)」では、新興企業におけるクラウドファンディング方式での
資金調達を認める内容が盛り込まれています。既存の枠組みにとらわれず、
幅広い資金調達手段を中小企業に提供することも大切ではないかと思います。


[3.海外との関わりについて]
2012年版では中小企業が海外展開へ取り組むことの重要性が説かれています。
この点には何ら異論はないかと思いますが、資金も人材も限られる小規模企業
がビジネスを海外に広げるのは容易ではありません。発注元を通じて結果的に
海外の商材が流通する製造業と異なり、小規模な小売業やサービス業の場合は
まずは外国人観光客に自社商材を購入してもらうことが第一歩となってきます。


実際、2011年版では日本へ渡航してくる外国人観光客をもっと意識することの
有効性について触れています。となれば、国レベルでも外国人観光客をもっと
呼び込む取り組みが必要ということになります。


既に「クール・ジャパン戦略」などを通じて海外の展示会で日本の工芸品を展示
するなどの取り組みが進んでいます。これも重要ですが、海外の観光客が手軽に
日本を周遊できる環境を整備することも大切です。2012年版でクール・ジャパン
戦略の成果の一つとして掲載されている「江戸切子」も、実際に日本を訪れた人
が「Edo Kiriko」として自国内で紹介したことによる効果が無視できません。


海外からの観光客向けに「ジャパンレールパス」というものが提供されています。
一定期間、新幹線も含めた各種鉄道を利用できるフリーパスです。ですが、「期間
は連続していなければならない」という制約があります。日本周遊の際、どこかで
1〜2泊したとすると、その分は丸々損をしてしまうことになります。また「のぞみ」
は利用できません。フリーパスと言いながら「ひかり」と「のぞみ」を区別しない
といけないというのも大変不便です。


ドイツにも「ジャーマンレールパス」というものがあります。実際に利用したことが
ありますが、こちらは「連続した期間」である必要がありません。「述べ旅行日数は
10日間だけれども、そのうち移動するのは7日間なので、7日分のパスを買えばよい」
ということになります。ドイツの新幹線に当たるICEも自由に乗れますし、ライン川
を航行する観光船にも使えます。


小規模企業が海外からの観光客の恩恵を得るには自身の地域に来てもらうことが
大前提です。そのためには、一回の訪日中に少しでも多くの地域を気軽に訪れる
ことのできる環境を整える必要があります。上記の例のように、その点において
日本が改善すべき点はまだあるように思います。


[まとめ]
中小企業白書では毎回様々な提言やビジョンの提示がなされていますが、その中には
「それを実現するためには国としての取り組みが不可欠」といったものも多々あるか
と思います。上記に述べたものも、経産省だけでなく他の省庁も巻き込んだ取り組み
が必要となるものばかりです。それらの成果を出すためには、少なくとも数年単位の
時間を要します。


各年度でテーマを設定し、その調査結果を取りまとめるのが同白書の基本的な役割
ではあります。ですが、それに加えて「国にしかできない施策」を具体的に提言し、
その成果を年度を越えてトラッキングしていくという観点が加わると、より実効性
のある取り組みになるのではないかと考えています。