またまた遅ればせなのですが、地元のTSUTAYAでビデオ100円セールを
やっており、「少林サッカー」があったので購入して観てみました。
噂には聞いていましたが、とても楽しめました。
チャウ・シンチー監督のカンフーに対する愛着と情熱がとても感じられます。
中でも印象的だったのはラストシーンで太極拳の女の子がゴールキーパーを
する場面です。
中国拳法には筋力を鍛え、表面的な打撃を基本原理とする「外家拳」と五臓
六腑の内臓を鍛え、体の内部に衝撃を伝播させることを基本原理とする「内
家拳」があります。外家拳の代表例が少林拳、内家拳の代表例が太極拳です。
気功を伴うのが内家拳であると誤解されることがありますが、どちらも気功
を行ないます。気功そのものにも「外気功」と「内気功」という区分をつけ
ることもあります。
余談ですが、「北斗の拳」の中で北斗神拳は体の内部を破壊し、南斗聖拳は
身体を外部から破壊するという設定がありますが、これは「内家拳」と「外
家拳」の相違を拝借したものではないかと思います。少林拳には蹴り技が多
く伸びやかな動きが特徴の「北派少林拳」と、どっしりと構えて巧みな手技
が特徴の「南派少林拳」がありますが、いずれも「外家拳」に属します。「
北斗の拳」ではこの北と南の要素も取り入れていたということですね。ちな
みに映画界で活躍している俳優さんは「南派少林拳」の系統を学んだ人が多
いみたいです。
でもって、「少林サッカー」の話に戻りますが、少林拳の達人であるキーパ
ーは相手の蹴ったボールを力で跳ね返そうとし、ついには負傷して倒れてし
まいます。一方の太極拳の女の子は放たれたボールの力に逆らわず、それを
柔らかくいなして受け止めます。太極拳では「推手」と言いますが、本当に
これをきちんとできるようになると、どんな攻撃もサラサラと受け流せるよ
うになるそうです。(一度、この目で確かめたいと思っていますが)このシー
ンはカンフーの奥義ともいえる「推手」の凄さを描きたかったものではない
かと思います。
女の子が太極拳の構えをとる際に背景に陰陽マークが浮かび上がるのも印象
的です。陰陽マークは近代科学の二元論(自然vs人間/精神vs物質 etc)と異
なり、どのようなものもスパッと二つに分けられるものではないという一元
論的な思想を表したものです。相補性原理を提唱し、量子力学の基礎を築い
た一人でもあるボーアがこの陰陽マークを大変好んでいたというのも、とて
も印象深い話です。ちょっとした演出ではありますが、この映画の隠れたメ
ッセージ性を感じます。
最後には女の子からボールを受け取ったチャウ・シンチー監督演じる少林拳
の達人がシュートを決めるのですが、柔と剛が互いに補い合ってはじめて一
つの形を成すことを示しているようにも感じます。 (ちょっと考えすぎかも
知れませんが...)
いずれにしても、気軽に楽しめるエンターテイメント作品であると同時に、
良く観ると随所に含蓄の深いメッセージが盛り込まれている素晴らしい映画
だなというのが感想です。
最新作の「カンフーハッスル」も期待できそうですので、観に行ったらまた
感想を書きたいと思います。