ゆーたんのつぶやき

株式会社ノークリサーチにてIT関連のシニアアナリストとして活動しています。

『PDCA』と『wPLEP』



PDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)を回しましょう
というのはもう誰もが知っているフレーズだと思います。
ですが、PDCAサイクルを回すということを単に「大雑把な
段取りを考えて実行し、適当なタイミングで見直しをすれ
ばいい」と誤解してしまっているケースがあるようです。


PDCAの各要素についてあらためて確認してみたいと思います。


まず「Plan」ですが、これには主なものとして
・Purpose(目的)
・Measurement(評価基準)
・Recognition(現状および現時点での問題や課題の認識)
・Procedure(手順、段取り)
といった要素があるべきと考えています。「何のためにそれを
行い、何を以って成功/失敗と見なすのか?」ということを
あらかじめきちんと明確にしておかなければ、後に続く「Check」
を実行することができないはずだからです。ですが、往々にして
簡易な「Procedure」のみで済ませてしまい、そもそもの目的や
判断基準が不明確なまま実行に移してしまうことが多々あります。
このように不完全な「Plan」をここでは「wP(weak Plan)」と呼ぶ
ことにします。


「Do」については「とにかく頑張る!」しか目に入っていないことが
多いですが、大事なことは
・Trace(記録を取る)
ではないかと思います。やりっぱなしでは後になって評価することができず、
評価ができなければ改善のために何をすべきかも見えてきません。なかなか
伸びない組織を見ていると、この「やりっぱなしでトレースしない」という
傾向がとても顕著に現れているように思われます。昨今では「Check」との
絡みに重要なポイントがあるように思いますが、その点については最後に
述べたいと思います。このように逐次記録を取ったり、ウォッチすることを
せずにやるがままに任せてしまっている状況をここでは「Leave」(放任)と
呼ぶことにします。


「Check」についてはやっているつもりでほとんどやっていない
というケースが多い部分ではないでしょうか。「Plan」で決めて
おいた目的や評価基準をきちんと満たせているか?満たせている
のであればその要因は何か?逆に満たせていないのであれば、
その要因は何か?といった分析が重要です。ですが、うまくいって
いる時には「この調子でこのまま頑張ろう!」と言って、何故うまく
いっているのかを考えず、うまくいかない時には「景気が悪い」
「案件が長期化した」「対象市場に変化があった」といったマクロ
な要因を引き合いに出して理由付けにしてしまいます。ですが、
こうしたマクロな要因は短期的に突発的に発生することは稀なので
「Plan」を策定する段階で折り込み済みであるべき要素です。もし
「Check」の段階での理由付けにこうしたマクロ要因が挙げられる
とすれば、その原因は
・「Plan」の段階でマクロ要因を織り込むことができていない
PDCAの1サイクルが長すぎて、マクロ要因の影響を受けている
のいずれか、あるいは両方であると考えられます。
このようにきちんとした分析に基づく「Check」をせず、マクロ要因を
主な引き合いに出して失敗の理由付けにする行為をここでは
「Excuse」(言い訳)と呼ぶことにします。


「Action」は言ってみれば是正措置ですが、「Check」を正しく
行なえなければ、当然「Action」もいい加減になってきます。
良く見られるのはビジネス手法が自社にフィットしなかった時に
その原因をきちんと分析し、自社に足りないモノは何なのか?を
探求することをせずに「これはウチには合わない」と切り捨てて
しまうことです。結局、「オレ流」のやり方で現行のスタイルを
変えないことを最優先にしてちょっとした修正を施すだけで、
「よし、ちゃんとActionも実施したぞ」ということになります。
ここではこれを「Patch」(取り繕い)と呼ぶことにします。


つまり、本来は「Plan→Do→Check→Action」であるべきものが
「weakPlan→Leave→Excuse→Patch」になってしまっており、
それを称して「PDCAサイクルを回しています」と胸を張っている
ケースが意外とあるのではないかと感じています。


以下のような例で具体的に考えてみたいと思います。
1.ナレッジの共有を深めるという名目で社内Blogやフォーラムを開設する
2.社員のスキル向上のために勉強会やコンテストを開催する
3.業績改善のために営業人員を増強する


1.のパターンでは「とりあえずBlogやフォーラムを開設してみて様子を
みてみよう」ということをやってしまいがちです。ですが、運用の目的
(Purpose)や運用ルール(Procedure)が明示されないと、利用する側は
何をどうしたら良いのか全くわかりません。「そういった利用方法も含
めてPDCAの中で回していくんだ」という意見がありますが、規準が存在
しないものをどうやってチェックするのか?という視点が抜けています。
「とりあえず始めてみて、後で詰めていけばいい」という無責任な考え
PDCAとは根本的に異なるのですが、それが理解できていないパターン
といえるかと思います。そもそも「Plan」ができていないケースです。
また、定めた運用ルールがきちんと守られているかを適切にウォッチしない
「Leave」の状態にも陥ってしまいやすいパターンでもあります。


2.のパターンは「Purpose」と「Check」の兼ね合いが難しい例です。
当初の目的は社員のスキル向上ということでやや長期的な戦略に含まれる
事柄になります。ですが、いざ「Check」の段階に入ると、当月の売上と
いったような会社の現実問題としての事情も無意識に加味されてきます。
一ヶ月実施したくらいでは社員のスキルが当月の売上に反映されるはずは
ありません。そこでトップが短期的な視点しか持てないと「勉強に時間を
使うくらいなら、目の前の顧客への対応を考えるべきだ」という「Patch」
が働くことになります。ただ、これについては何が絶対的に正しいという
ものはありません。このように単独のPDCAサイクルだけでは判断をつける
ことが難しく、他のPDCAサイクルとの兼ね合いも考慮しなければならない
パターンもあったりするので難しいところです。「Purpose」の優先度を
全社的な視点で検討しておくということと、「Check」の段階になってから
急に恣意的な要素を持ち込まないということが重要だと教えてくれる事例
ではないかと思います。


3.のパターンは「Plan」の中の現状分析(Recognition)がそもそも適切で
ない可能性がある例です。売上が伸び悩んでいる原因が「顧客からの引き
合いも多く、成約率も高いのに、それをこなしきれていないために失注を
してしまっている」ということであれば、営業人員の増強には意味があり
ます。ですが、本当の原因が「個々の案件にて営業に要求されるスキル
レベルが格段に高くなり、それに対応できなくなってきている」とか、
「広告宣伝費の削減が響いて、製品知名度が低下し、顧客の製品検討の
対象にそもそもなっていない」といったことにあるかも知れません。
「Plan」をいい加減にしてしまう組織の場合は、プランを立てる際の要因
分析を直近の出来事から引き出そうとします。例えば、つい先日たまたま
営業全員が出張中でその時に電話のあった引き合いをロストしてしまった
といったことが引き金になって上記のようなプランが作られます。月単位
のみで物事を見るのではなく、ある程度の時間的な幅を持って分析をする
ことが重要です。これは当たり前のことなのですが、意外と難しいことの
ようです。例えば月次の業績報告などを見ていると先月には「業績は回復
基調、新規の引き合いも増加傾向」と書いてあったかと思うと、次の月は
「業績は横ばいが続く、新規の引き合いは落ち込みが激しい」とかなって
いたりします。『傾向』とか『基調』というのは時間的に継続した状況が
認められるときの表現だと思うのですが、数ヶ月分を続けて眺めてみると
当該月の数字だけを見てコメントしているような印象も受けたりします。
「Check」であるならば、その時の感情的な印象を書くのではなく、安定
した分析に基づいた時間的にも幅のある見解を出さなければなりません。


最後にこれから求められるであろうPDCAを回す上での重要ポイント(だと
ボクが個人的に考えている)を挙げてみたいと思います。


ここ最近で特に感じるのは
1. PDCAサイクルの適切な長さ
2. DoとCheckの同時並行性
といったポイントです。


まずは1.について述べてみたいと思います。
「Check」の段階でマクロ要因を引き合いに出してしまう「Excuse」が
あるということを挙げましたが、それをやってしまう場合にはPDCA
一つのサイクルを回す周期が長すぎるケースが多いように感じます。
またマクロ要因の変化周期自体もますます短くなってきていますので
それに応じてPDCAを機敏に回す必要性がさらに高まっているのでは
ないでしょうか。例えば、年初に立てた計画を全く修正しないままに
年度末まで過ごす会社はおそらくほとんどないと思います。大手企業
は概ね四半期毎に業績見込みの修正を行ないますが、それでも頻度が
少ないくらいかも知れません。年度の途中で予測を見直すというと、
下方への見直しの場合には心理的な抵抗があるのは確かです。ですが
本当にマクロ環境が影響しているのであれば、それを踏まえた上で何
をすべきかのプランを再構築せざるを得ません。一番良くないのは
精神論的根拠から当初の業績予測に固執して、年度の途中で「Check」
と「Action」をかけることをせず「とにかく頑張ろう!」と根性論的
な「Leave」を続け、年度末になってマクロ要因を引き合いに出して
「頑張ったけれど、コレコレの不可抗力があったから仕方がない」と
「Excuse」をするというパターンです。これをやってしまうと「でも
景気が悪いのはみな平等だし、置かれている状況は同じなのになんで
ライバルはあんなに稼いでいるんだろう?」という疑問に駆られます。
「Check」と「Action」は自身の非を認めて是正する行為でもあります。
それをやれるだけの度量と才覚を持ったリーダーがいるかどうか?
ということは組織にとってはとても重要なことではないかと思います。


次に2.のポイントですが、これは最近特に実感していることでもあります。
最近では世の中の変化のスピードが激しいので、以下のようなことが良く起ります。


・一生懸命ゼロからコーディングしたけれども、同等以上のモノが
 フリーのオープンソースで存在していた
・必死になって勉強した技術やメソドロジーがあっという間にアンチ
 パターンとして非難される対象になっていた(2.X以前のEJBなど)
業界標準や法令といったルールが頻繁に変わったり、新たなものが
 登場したりする


こうした状況を踏まえると、「Do」と「Check」の時間間隔は徐々に狭まってきます。
そして遂には「Do」と「Check」を同時並行的に行なう必要がでてくるのはないか
と考えています。つまり、一生懸命現在の事柄に取り組む一方で、その方針や手段
は本当に正しいのか?他にもっといいやり方はないのか?他社(他者)はどうやって
いるのか?という目配せを怠らないという器用な振る舞いが求められてくるように
感じています。
ですが、一方でこうしたことは「好ましくない行為」と捉えられがちでもあります。
「Plan」が完了し、「Do」を実行している最中に「Check」も同時に行なうという
ことは横槍を入れると思われてしまいがちです。「皆が一丸となって頑張っている
時に何故そういう余計なことを言うんだ!」という意見が出るのはある意味日本的
な風情の名残でもあるように感じられます。一生懸命やっている最中なんだから、
その間はとやかく言わずに任せておく、というのは道徳的に美しい響きであり、
また自主性を重んじた組織運営であるように錯覚をしますが、これは当に「Leave」
(放任)そのものです。
そういう意見が出てくる組織ではPDCAではなく、wPLEPがガンガン回っていることが
多かったりしているのですが、当人達はそれに気づいていないので、ほとぼりが冷めた
ところで「Excuse」をし、「Patch」をすることで満足していることになります。
確かに必死に取り組んでいる最中にその取り組みに対して客観的な視点を注ぐことは
心理的にも辛い面があるかとは思います。ですが、世の中の変化や他者(他社)の動向
も省みず、「オレ流」で貫き通したとしても、その先に待っているのは「Excuse」と
「Patch」であり、結局は次のwPLEPサイクルへの堂々巡りです。それが最後には会社
の業績の横ばいという目に見える形で現れてきますが、その原因が「Check」ではなく
「Excuse」をしている自分自身にあるとは捉えず、マクロ環境要因に責任を押し付けて
しまうことになります。他人からの批判や客観的な評価に慣れるという訓練を意識的に
行なっていない日本的な組織運営を取っている場合においてはこうした傾向はある意味
仕方のないことなのかも知れません。
また、こうした文面を書くと「ギチギチに管理した体制では個々の能力が発揮されず
組織は停滞してしまう」という極論に達してしまう場合があります。「Do」における
「Trace」や「Check」といった行為は過剰なコントロールや支配といったものとは
全く別のものです。ですが、「Trace」や「Check」の指しているものが理解できない
ケースですと、そうした「管理統制主義」と区別できないという場合もあるようです。


これだけ変化の激しい昨今においては
・現在取り組んでいる事柄に全力を尽くす自分視点でのマインド
・現在取り組んでいる事柄を客観的に評価し、周囲の状況も加味した上で
 必要があれば迅速に是正措置を講じる第三者視点のマインド
の相反する二つのマインドを同時に持つということを個人レベルでも組織レベルでも
実践することがとても大事なのではないかと考えています。
後者のマインドを持つことのできるリーダーのいる組織といない組織では、
発揮される力はおそらくケタ違いになってくるのではないでしょうか。
自分自身もそして自分も含めた組織も共に「wPLEP」ではなく、真の「PDCA」を
回すことができるように日々研鑚を積むことが大事だなとあらためて思いました。


※「wPLEP」というのはボクの勝手な造語です(^^)