ゆーたんのつぶやき

株式会社ノークリサーチにてIT関連のシニアアナリストとして活動しています。

ユーザビリティについて考える



ここ最近、身の回りでユーザビリティについての議論が活発なので、
自分なりに日頃思っていることをちょこっとまとめてみました。
ユーザビリティを論じる際には、まずその定義を明確にしておかないと
いけませんね。これまでの流れの中でユーザビリティの定義はいろいろ
変遷しているように思います。教科書的にはISO 13497に沿って云々と
いうことになるわけですが、ここではざっくばらんに独断と偏見で(^^)
捉えてみることにします。


ユーザービリティに対するスタンスを「重要視するポイント」という
観点で自分なりに整理してみました。


[説明性/明朗性の観点]
 ユーザービリティといえば、やはり大御所Yacob Nielsen氏ですが、
 古典でもある「Usability Engineering」を眺めてみると「ユーザーに
 対してきちんと説明する、ユーザーに事前/事後にきちんと伝える」
 という『説明性/明朗性』が重視されているのではないかという気が
 します。実際、2002年頃までは同氏はFlashのようにユーザー側の
 明示的な了解無く動作するコンテンツには否定的な立場でした。
 現在ではFlashを使ったコンテンツに関するガイドラインも出して
 いますが、この『説明性/明朗性』というスタンスは一貫している
 ように感じられます。また、これは同氏が当初から対象としている
 題材が主にWeb上のコンテンツであることが多く、Webコンテンツは
 本来他者に対して情報提供を行なうことを目的としていることから
 すると自然な流れなのかも知れません。


[可搬性の観点]
 適切な応答時間の長さについて書かれた「Designing the User
 Interface」の著者でもあるBen Schneiderman氏が「ユニバー
 サルユーザビリティ」という概念を提唱しています。「ユニバー
 サルデザイン」や「アクセシビリティ」もここでは同じ観点に
 分類しています。利用者側の様々な側面における「ばらつき」を
 許容できるようにすることを目指したものと理解しています。


[直感の観点]
 直感に訴えるというスタンスもいろいろありますが、なかでも
 Nielsen氏のパートナーでもあるD.A.Norman氏が提唱した「
 アフォーダンス」という概念が重要だと考えています。ヒトが
 見た場合にその自然な操作や使い方をそのデザインから容易に
 把握できることを目指したものですが、これはマニュアル不要
 のアプリケーションの実現にも通じるもので、大事なポイント
 だと思います。

 
[現実模倣の観点]
 いわゆる「バーチャルリアリティ」の世界です。昔、実際の机
 の上の様子を画面上に再現したビジネスアプリケーション等が
 ありましたが、最近はエンターテイメント用途とビジネス向け
 の一部(物件販売時に希望する家具などが実際に置かれた状況
 を買い手が仮想体験できるなど)を除いては以前よりは下火に
 なってきているように感じます。ディスプレイの中に現実世界
 をそのまま再現するというのはヒトにはあんまり馴染まないと
 いうことなのかも知れません。


最近特に重要性を感じているのがアフォーダンスなのですが、
特に関心があるのが「アフォーダンス連鎖」とも言うべきもの
です。(勝手に名前付けてますが....)
アフォーダンスと言った場合、通常は『押したくなるボタン』
といったように単体のUI部品の単体のアクションに対して言及
されることが多いかと思います。ですが、特にビジネス向けの
アプリケーションの場合には一連の流れに対し「アフォード」
をすることが求められてくるのではないでしょうか。


例えば、顧客情報一覧を表示させながら、同時に詳細画面を
開いて編集を行なうといった場合、一回一回詳細画面を開く
のではなく、詳細画面を開いたままで対象となる顧客データ
を遷移させていく方がはるかにユーザービリティは高くなり
ます。
従来のWebアプリケーションではいわゆるMaster/Detail型
のインターフェースで一覧画面のすぐ横に常時詳細画面を
表示させておくことでユーザビリティの向上を図るのが通例
です。ですが、リッチクライアントの技術を使えばデスク
トップアプリケーションで行なわれるような上記の動作
(詳細画面ウインドウを別途開いて、対象データを遷移させる)
も十分可能になります。
ただしそこで問題になるのが、そのような操作が可能である
ということを如何にユーザーに伝えるか?という点です。
詳細ウインドウを開いたまま矢印ボタンを押すことで、編集
対象となる顧客情報データを遷移させることができるという
ことを直感的にユーザーにわかってもらうのは一つのボタン
を押させることよりもはるかに難しいことです。
そのためには単独のUI部品のアフォーダンスではカバーする
ことは難しく、複数のUI部品に対する操作を含んだ一連の
流れを「アフォード」する必要があります。


このような「ユーザーに実行させたい一連の操作の流れ」を
アフォーダンス」ではなく、明示的・強制的に行なわせる
手法の代表例が「ウイザード」や「モーダルウインドウ」と
言えるかと思います。ですが、この両者はユーザーが操作中
に他の操作もついでにやりたいと思った時には、ユーザー側
がそれを覚えておく必要があります。例えば、グループ登録
ウイザードの実行中に「あっ、そうだあのユーザーデータも
一緒に登録しておかなくちゃ」と思ったりするケースです。
ヒトがデータの登録や更新を行なう場合には、そのような
「思考の寄り道」が意外と多いのではないかと思います。
もちろんウイザードでもオプションの選択肢を用意したり
不要なステップはスキップさせたりといったことで、ある
程度の幅を持たせることはできます。ですが、基本的には
一本道を辿ることを前提としているので、そこに寄り道を
設けると返って煩雑になってしまいます。


ということで、ここ最近は「アフォーダンス連鎖を実現する
うまい方法はないものか?」ということに日々頭を悩ませて
います。